代表理事
園部まり子・長岡徹

顧問
西間三馨先生
(国立病院機構福岡病院名誉院長)

講演会 • 学会発表報告

講演会•学芸発表報告の説明

第49回の日本小児アレルギー学会が9月15,16の両日、大阪国際会議場で行われました。大会の会長は大阪府済生会中津病院小児科、免疫・アレルギーセンターの末廣豊先生、「みんなに伝えよう、こどものアレルギー 深く、楽しく、わかりやすく!」をテーマに、全国からたくさんの先生方や看護師などコメディカルが参加して行われました。今年は日本アレルギー学会の春季臨床大会、日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会も大阪で行われ、学会参加のために大阪を訪れるのはこれで3回目となりました。新たな出会いもあり、とても有意義な2日間となりました。

■「みんなに伝えよう! こどものアレルギー」

寄せられた相談などを紹介する園部

寄せられた相談などを紹介する園部

今回の大会で「母の会」は、大会のテーマにも通じるシンポジウム「みんなに伝えよう! こどものアレルギー」で発表する機会をいただきました。報告に立ったのは、厚生労働省保育課保育指導専門官の丸山裕美子さん、大阪狭山市立南第一小学校校長の伯井正美先生と私・園部です。丸山専門官には東日本大の震災地で「母の会」が協力して行った研修会の講師を務めていただいたことがあり、伯井先生の学校を訪れたこともある旧知のお二人です。また座長のお一人は、日ごろお世話になっている東京都立小児総合医療センターアレルギー科部長の赤澤晃先生と、とても和やかな雰囲気の中で行われました。

■専門官が「保育所ガイドライン」を解説
発表の中で丸山専門官は、保育所におけるアレルギー対応について、「医師による診断方法や理解度が異なり、保育所で混乱が起きている」「食物アレルギーへの対応が保育所によってさまざまであり、誤食や誤飲事故が起きている」などの課題を踏まえて、昨年3月に「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」を公表。疾患の正しい理解や保育所での生活上の留意点、除去食の考え方、「エピペン」の使用を含めた緊急時の対応などを示した同「ガイドライン」の活用に向けた研修の実施、保育所職員の共通理解と組織的な対応、専門医などと連携する体制づくりが大切であることなどを話されました。

シンポジウムでは活発な意見交換が

シンポジウムでは活発な意見交換が

■小学校での対応を校長先生が報告
伯井先生は、食物アレルギーで自己注射薬「エピペン」を持つ子どもが入学するのを機に、「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(平成20年3月、監修:文部科学省)、「食物アレルギーによるアナフィラキシー学校対応マニュアル」(平成17年4月、日本学校保健会)に基づいた取り組みを始め、校長や教頭、養護教諭も同席した保護者との面談、「学校生活管理指導表」の活用、保護者と協力しながらの専用の緊急対応マニュアルの作成、全教職員に向けた研修の実施、救急隊との連携などに取り組んでいることを報告しました。

■「母の会」は寄せられた相談などを紹介
お二人の間、2番目に発表した私からは、「患児の思い、適切な対応を共有できる学校・園に」というタイトルで、日々寄せられる相談から浮かぶ保護者の悩み、学校や保育所の課題や悩み、「母の会」が神奈川県と協働で行っている教職員研修などの際に行ったアンケートから浮かぶ課題などについて報告し、研修を継続的に行っていくことの大切さを強調させていただきました。

終了後に座長の先生など参加者で記念撮影

終了後に座長の先生など参加者で記念撮影

「母の会」には保護者だけでなく、学校・保育所などからも相談が寄せられます。発表では、保護者から寄せられた「食物アレルギーの対応をお願いしたら『特別支援学校にいったら』と言われた」「校長先生の理解が得られず、何も前に進まない」「ナッツだけ除去の小学2年生。多品目除去の児童が転校してきたのを機に、校長の指示で同じ多品目除去の給食を食べることになり、理不尽に思って不登校になってしまった」などという声、養護教諭から寄せられた「主治医の診断は『隠れアレルギー』。給食で『牛乳はダメだが、ホワイトシチューは可』という指示書が出されている。おかしいのではないか」「校長の方針で、情操教育として1年生の教室でハムスターを飼い始めたら、喘息を発症する子どもが増えた。『毛のある動物を室内で飼うとアレルギーの子は悪化するので止めるべき』と言ったら、2年生の教室に移した。『何の対策にもならない』」など困惑している実情、また保育所から寄せられた「『ガイドライン』どおり『生活管理指導表』の提出を求めたところ、皮膚科1カ所、小児科2カ所で『そんなもの聞いていない』と書いてもらえず、代わりの診断書には血液検査結果で陽性の食物すべて除去の指示、園も保護者も困り果てている」などの実情を紹介しました。

赤澤晃先生(左手前)を囲んで懇談会も

赤澤晃先生(左手前)を囲んで懇談会も

■不適切な医療に翻弄される学校や園
その上で私からは、(1)正しい病態の理解や「ガイドライン」に基づく必要な支援が、まだまだ学校・保育所に理解されていない (2)理解してくれない学校・園に、保護者は次第に不信を募らせてゆく。最初から「モンスター・ペアレンツ」はいない (3)背景に適切ではない医療、患者指導がある場合も多い。そこでは保護者だけでなく、学校・園も翻弄されることを強調し、学校や保育所の教職員に対する研修の重要性、中でも学校では、子どもたちと最も多くの時間を過ごしながら研修を受ける機会が少ない教諭に対する研修の大切さを、アンケート結果のデータを示してお話しさせていただきました。

懇親会で海老澤元宏先生と

懇親会で海老澤元宏先生と

 

■会場で先生方と懇談の機会も
今回の学会でも多くの患者さんとの出会いがありました。嬉しいことにそんな私たちと、何人かの先生が会場の一角を借りて懇談してくださいました。その中のお一人から後日、「学会での発表は研究段階のものがほとんどです。基調講演は学会の基本方針を示すものですが、その他のものは注意してください。聞かれる方が基本的な知識があるものとして演者は話をしています。ひとつひとつの発表に惑わされることがないようにしてください」という内容のメールをいただきました。

ブースを出したアレルギーサイングループの皆さん

ブースを出したアレルギーサイングループの皆さん

学会という医療の最先端の議論をする場に患者や支援者が参加させていただく基本的な姿勢を教えていただき、感謝の思いでいっぱいです。

(園部まり子)